(投稿日:2015年8月16日/編集済)
一般的に慢性疲労症候群の正体はわかっていない。検査でなかなか異常が検出できないことは、治療・療養のヒントがないだけでなく、医療者や周りの人から心ない言葉を浴びせられることが多く、患者にとってつらく深刻な問題である。
そんな中、私は発症から7年経って、ようやくおおむね原因を突き止めることができた。特殊な抗体で陽性反応が出たのである。要は神経系の自己免疫疾患であることが判明した。抗gAchR抗体(抗ガングリオニックアセチルコリンレセプター抗体)である。
これは2015年現在、日本では熊本大学病院(2015年3月までは長崎川棚医療センター)でしか検査できない抗体で、病院の通常の検査項目には含まれていない。血液を熊本に送付しなければならない。
抗gAchR抗体は、自己免疫性の自律神経節障害(AAG)をおこす抗体として、2000年以降、海外の神経内科領域で注目されはじめた。AAGの症状は、起立性低血圧、動悸・失神、口腔内の乾燥、発汗の障害や暑がり、排尿障害、便秘や下痢などの腸管運動障害、性機能障害などの自律神経症状が出ると言われている。また部分的な症状の場合もある。日本では2011年から上記病院でのみ検査できるようになった。1)
AAGの概念の背景にはギランバレー症候群がある。自己免疫性神経疾患であるギランバレー症候群の中に、変わり種のような病態として、自律神経のみが障害されるパターンがある。
これをAAGという概念で語るようになり、AAG患者の約50%が、抗gAchR抗体陽性であるとわかってきた。2,3)
*抗gAChR抗体検査に関する情報は抗gAChR抗体検査について(ME/CFS info)をご確認ください
抗gAchR抗体にたどり着いた経緯
さて、私はいわゆる典型的なギランバレー症候群のような強烈な脱力やしびれはない。AAGのような症状は一部あるが、そうでない部分もある。私はこれまで複数の専門医から「慢性疲労症候群」と診断されている。一番困っている症状は頭痛と強い倦怠感だが、そこには重症の起立性頻脈(POTS)がおきていると、数年かけてようやくたどり着いた。
また他の症状として、首から胸の後ろまで背中の筋肉が異様に張って呼吸が苦しい、光や音がつらい、脱水しやすくトイレが近くなった、風邪がうつりやすくなったなど、単に脈拍の乱高下だけではない問題を抱えている。要はPOTS型の慢性疲労症候群である。さらに、抗核抗体が高値であることや、シェーグレン症候群である事も判明している。
POTSに対する薬の処方は、まずミドドリンやβブロッカーがよく言われている。
まずはこのような循環器の薬(メトリジンやインデラルなど)を順番に試した。しかしこれらの薬では、数値では起立性頻脈がおだやかになっても、身体そのものは全然ラクにならなかった。
次に、処方リストで優先順位が高くないが、ピリドスチグミン(メスチノン)を試すことになった。4,5)
メスチノンは通常、自己免疫性の神経疾患である、重症筋無力症で使われる薬である。またさまざまな神経難病でも使われている。
メスチノンを服用すると、脈拍数はさておき、首から胸の後ろまでの背中の筋肉の張りが減り、息をするのがラクになる効果を感じた。
またPOTSの処方リストでは取り上げられることが少ないが、CFSの起立不耐性の処方リストに入っている、抗利尿ホルモン(ミニリンメルト)も試すことになった。5)これも起立性頻脈がおだやかになるとともに、身体がいくらかラクになる効果を感じた。
このような結果から、起立性頻脈はあくまで結果で、根本的には神経、免疫、内分泌の総合的な働きの中で、問題が起きていると推測できた。このようなことは慢性疲労症候群に対する捉え方でも、よく言われていることである。
次に「POTS」「メスチノン」にしぼって調べた。すると、POTSの10-15%(文献によっては25%程度)はgAchR抗体という抗体を持ち、ピリドスチグミンが効果が出る、という情報を得た。6)POTSはもともと多種類の原因が言われていて、10-25%という数値は小さくも大きくもないと思われる。7)
私は抗核抗体陽性やシェーグレンがわかっていて、そもそも、以前からなんらかの自己免疫疾患ではないかと疑っていたので「もしかしてこれでは?」となり、抗gAchR抗体を検査する事になった。
抗gAchR抗体が陽性とわかり、次のステップは治療の検討となる。メスチノンやミニリンメルトを継続する以外には、免疫グロブリン療法(IVIG)、ステロイド、抗がん剤(リツキシマブ)などの選択肢があると知った。
7年かけてようやく病気の正体がわかり、治療のヒントを得られたことは、大変ありがたくほっとしている。ただ治療法は手ごわいものばかり。これからゆっくり考えようと思う。
伝えたいこと
慢性疲労症候群は何パターンかの患者さんがいるので、全ての患者さんが、私と同じような形で慢性疲労症候群の正体にたどり着くわけにはいかないだろう、と思っている。
ただここに書いたAAGやPOTSに、何か思い当たる患者さんならば、できるだけ良い神経内科の病院で、ギランバレーや重症筋無力症で行う検査を一通り受けたり、抗gAchR抗体の検査を受けてほしいと思う。
それから結局、慢性疲労症候群やPOTSといった状況の患者さんは、抗gAchR抗体の有無にかかわらず、軽症とか簡単になんとかなるような状態ではない。
他の難病と並んで十分に難病で、医療者や周りの人が、心ない発言や無視などはあってはならない病気であることを、強く申し上げたい。
さらに、検査で異常が出ないという理由で、精神疾患とみなされている患者さんの中に、私と似たような状態の患者さんがいる事が十分考えられる。
私自身、これまで何度も、この病状を精神疾患だと言われてきた。自己免疫疾患を精神のせいにしても、永遠に抜けだせず、むしろ患者さんを精神的に追い詰め、傷めつけてしまう。
私のような症例から、検査で異常が出ないときの医療のあり方を見直して頂きたい。
1)自律神経障害における新たな抗体測定法を確立 ~本邦初の自律神経系疾患の新たな診断が可能に~
2)自己免疫性自律神経節障害 autoimmune autonomic ganglionopathy
3)Autoimmune autonomic ganglionopathy と acute autonomic and sensory neuropathy
4)Postural Tachycardia Syndrome: A Heterogeneous and Multifactorial Disorder
5)Treating Orthostatic Intolerance in CFS: Drugs
6)Autonomic Ganglia: Target and Novel Therapeutic Tool
7)Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome