コロナ後遺症と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)

(作成日:2020年8月31日)

コロナ後遺症(long COVID)として筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)を発症する可能性について、今年5月の啓発デーのときにnoteを書いた。ME/CFSは以前からウイルス感染後の発症が知られており、SARSのときも発症がみられた。

新型コロナ感染拡大から約半年経ち、情報が増えてきたので、少しまとめたい。


まずlong COVIDの分類として、ICUを要した重症例(肺線維化による体調不良の継続)、血栓塞栓症などの重症例、疲労感、息切れなどの非特異的な臨床像とみなされてる例に分かれる。
8月11日
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m3026

私は前2つの詳細はエキスパートにまかせたく、おもに3つ目のことを書きたいが、出てきてるレポートの調査対象者は上記の形に絞られてるわけではないので、適宜、調査条件を入れながら書く。とりいそぎ定量。


1、イギリスではCOVID-19 Symptom Study appという症状入力アプリが出ており、King’s College Londonの研究者がデータ分析に加わっている。(コロナの味覚・嗅覚異常を報告したチーム)
調査結果によると、コロナ発症後、多くが2週間以内に回復する一方で、10%は3週間経過後も症状継続し、一部は数カ月かかるかもと伝えている。あらわれてる症状は「疲労感」「頭痛」「咳」「嗅覚異常」「喉の痛み」「せん妄」「胸痛」。
またこの結果では、コロナが重症より、むしろ比較的軽症なケースで、様々な症状の良くなったり悪くなったりが、より長期間起きてそうだとしている。
6月8日
https://covid.joinzoe.com/post/covid-long-term


2、またこれより前に、患者主導研究も始められていた。発症から6週間辺りで確認しても、疲労感、胸部圧迫感、息切れ、ブレインフォグ/集中力低下、空咳、疼痛、頭痛が40%強~30%出ている。メディア等で神経症状の扱いが小さいことを指摘している。
(–>調査対象者に未検査例が多く含まれてる点は注意だが、ME/CFS状態がコロナ外の自然体で大量発生することもないと思うので、それなりに解釈してよいように思う)
5月2日
https://patientresearchcovid19.com/research/


3、イタリアのジェメッリ大学病院の調査は、コロナで入院した患者143名を対象とし(ICU入院12.6%、肺炎72.7%、基礎疾患あり含む)、発症から平均60.3日経過後で、全体の87.4%になんらかの症状が残っている。
全体の44.1%がQOL低下し、特に疲労感(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛 (27.3%) 、胸痛(21.7%)がみられ、またこの他にも様々な症状があらわれている。
(–>調査対象者が入院患者のため、重い後遺症が含まれてると思われるが、割合から察するに、コロナが重症とまではいかない症状継続例も出ていると推察される)
7月9日
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2768351


4、米国CDCの調査は、コロナの外来患者274名を対象とした電話調査で、検査陽性から2~3週間経過後、35%は回復していない。特に18~34歳で26%、35~49歳で32%が回復しておらず、勉強、仕事、その他活動を長期休まねばならぬ可能性を伝えている。
継続症状は、咳(43%)、疲労感(35%)、息切れ(28%)が多いが、イタリア同様、様々な症状があらわれている。
特に慢性疾患なしの18~34歳の2割が症状継続していることから、基礎疾患や年齢を問わず、またコロナが重症で無くても、症状が続く可能性が示唆されている。
(–>調査対象者が外来患者なので、(間質性肺炎や血栓というより)非特異的とされる臨床像のケースが多いと推察される。)
7月31日
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6930e1.htm


いずれの調査結果も「疲労感」が上位に来ており、またその他症状もME/CFSでみられるものが散見されるので、やはり注視を要する状況だと思う。

British Medical Journalでは、かかりつけ医におけるコロナ後管理について、コロナ後の深刻で長く続く疲労感は、他の感染症後CFSと特徴が共通しているとしている。
そして効果的な薬物、非薬物療法はまだ出てない、段階的運動療法はこれまで論争になってるので慎重に…など。
8月11日
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m3026


ちなみにイギリスはME/CFSのガイドライン修正を2007年からさぼってたらしく、過去の段階的運動療法が残ってしまってるため、コロナで新たにME/CFSを知る人に誤解を与えぬよう、7月に注意喚起の声明を出している。ガイドラインは2020年11月に最新化予定。
7月10日
https://www.nice.org.uk/guidance/gid-ng10091/documents/statement


なお運動療法というか活動は、動けそうなときは動く、だめそうなときは無理しない、がよいかと思う。過去、私も含めて症状が重いME/CFSにも運動を薦められた時期があり、症状悪化で寝たきり化する例が各国で続出した。道端で倒れながらのウォーキング、運動して1週間以上寝込むような無理はお薦めしない)

長くなったので、定性的な情報や、病態に関する情報は、また書けそうな時に書く。

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